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ただひとの夢 (1)

『ただひとの夢』


「おっ父ぉ、おっ母ぁ、兄者……。」
 こんな馬鹿なことが。喜助はがくりとその場に膝をついた。
 その年日本を襲った台風は、喜助の生まれた村を、完全に水の中に沈めていた。家屋は潰れ、どこに何が存在していたのかまったく解らない。田畑はもちろんぐしゃぐしゃで、水の中にぷかぷかと倒木が流れる始末である。夜に襲ったというもの凄い量の雨は当然の如く人馬を呑み込み、おそらく一人の生き残りもいないだろうと思われた。
「なんでだよお、みんなあ。なんでだよお」
 地面に突っ伏し泣き続けるその時、ぴちゃ、という水音が喜助の耳を打った。
 どこか木の上辺りから雫が垂れたものだろうとさして気にも留めなかったが、続いてバシャ、バシャという大きな音が続く。まさか、と思いぐるりと見回した喜助の目に、肌色のうごめくものがちらちらと映る。
 それは水の中から、泥だらけになりながらも、必死に土手にしがみついている。 ぶる、ぶると震える手は、確かに人間のものだ。
「おおい、誰かいるのかあ」
 喜助は転げるように近づくと、その手を握り、ぐいっと上に引っ張り上げる。息も絶え絶えに土手に寝転んだ男の顔を見て、喜助は瞬間目を見張った。それは兄の清蔵であった。
 もともと端正な顔立ちをしている清蔵であったが、今回ばかりはあちこち泥が付き、擦り切れ、無残な様である。確かにとんでもなく泳ぎの得意な兄ではあったが、生きている者がいることすら信じられないような惨状で、全くどれほどの運の強さだろうと思う。
 はあはあと荒い息を繰り返す清蔵の脇に腰を下ろせば、清蔵が何やら呟いている。
「なんだ? 兄者」
 耳元に口を寄せれば、清蔵がうわごとのように呟く。あまりの衝撃に、未だ完全には覚醒していないのだろうと推測出来た。
「俺は……こんな所では死なん……俺ともあろう男が……俺は、選ばれた人間だ……」
「……!」
 喜助の体がぴくりと跳ねる。なんという精神力であろう。兄はこの状況でも「自分」を忘れてはいない。
 次の瞬間、喜助の瞳がどんよりと曇る。次いで、兄が首から提げている守り袋に目が行った。あの嵐の中にあっても、あれだけは肌から離さず、流れることもなかったらしい。
 喜助の心を、黒い雲が覆いだす。今なら、己の人生を変えることが出来るかもしれぬ。
 貧しい農村の次男坊であるが故に、奉公に出され安い給金でこき使われる自分。それに比べてこの兄は、生まれながらにして自分が特別であることを鼻にかけ、田の手伝いすら碌にしようとはしなかったのでは無いか。
 何が「選ばれた人間」だ。お前にどれほどの価値があるというのだ。
 今ならば。自分を知る村人は全て水の中に消えた。出稼ぎに出たものは、それぞれちりぢりになっている。もう会うこともあるまい。
 喜助は、手近にあった重い石を手に取った。兄はまだ荒い息のまま、手を胸の上に置いて目を閉じている。
 音を立てぬように、頭の上から近づく。
 その時、気配を察したように清蔵が目を見開いた。「あっ」という声を聞いたような気もしたが、その瞬間、喜助の手は清蔵の頭を目掛けて振り下ろされていた……。


 母の生まれは、海沿いの村だった筈だ。喜助は、いくつかの山と峠を越える事を決めた。
 途中旅籠に泊まった時も、どうせもう戻ることは無いのだからと、お店の主人がせめてもの好意でくれた路銀をみんなつかってしまった。
 首には、元は兄が下げていた守り袋がかかっている。紫のそれは、僅かに汚れてはいるものの、敗れた箇所も見当たらない。
 とにかく、一刻も早く母の故郷に向かい、そこで何か手がかりを集めなければ。
 喜助はもう、生まれた村を振り返ることはしなかった。自分は今日から生まれ変わるのだ。過去と決別し、違う自分になる。そう、決めていた。


 幾日かを費やして辿り着いた先は、海の広がる眺めの良い土地だった。
 まずは母の生家を探そうと、なるべく目立たぬように歩いていく。ぽつんと立つ人家の前で、一人の女が干物作りに精を出していた。何か聞けるかも知れぬと、期待を持った。
「あの、お尋ねします」
 静かに声をかければ、年配の女が顔を上げる。見慣れぬ余所者に困惑するような表情を浮かべたが、割に愛想の良い調子で、女が答えた。
「なにか?」
「えっと、この辺りに、キヨという者の生まれた家がありませんか?」
 『キヨ』という名が出た途端、喜助の肩は女に掴まれていた。反射的、とも言うべき速さで喜助を捕らえた女の言葉に、次の瞬間、喜助は自分の幸運に感謝した。
「アンタ……! 姉さんの事、何か知ってるのかい?!」



 

 『ただひとの夢』(2)に続く

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ただひとの夢 (2)

「……そう、だったのかい。アンタもそりゃあ辛かったろうね」
 『タケ』と名乗った女に、喜助は、取りあえず自分の素性と、先程まで見聞きしてきたことを大まかに話した。しかし、清蔵の存在は隠し、もちろん自分がここに来た真の理由も言う事は出来なかった。タケは姉の死にいたく動揺した様子で、鼻を詰まらせている。
「もう、俺には身内はいなくなっちまったんだなあ、と思った時、誰かおっ母さんの親類でも残っていないかと思ったんです」
 父の親類も既にいない。みんなあの水の中に沈んでしまったのだから。
 タケは痛ましげな視線を喜助に向けると、ふう、と溜息をついた。タケの容姿は、あまり母には似ていない気がする。どちらかと言えば、タケは女性にしては大柄だろう。田畑を耕しながらも、ほっそりと優しげな雰囲気を残していた母とは対照的に見える。
 ふたりの周りには、これから干物にされようとする魚達が静かに横たわっていた。もう跳ねもせず、捌かれるのを待つだけの魚達は、それでもぎょろりとその目を見開いて、罪人である喜助を見据えている。
 なんだかいたたまれずに目を逸らした喜助は、さて本題とばかりにタケに切り出した。
「おっ母さんのことを、教えてもらえますか? 実の所、俺は何も知らないんです」
 慎重に切り出せば、タケが僅かに身を硬くする。暫くの沈黙の後、なんとか自分の中で葛藤を収めたらしいタケが、重い口ぶりで語り始めた。
「アタシ達はさ、早くに両親を亡くしてね。ずっとふたりで助け合って生きてきたんだ。
 だから、お城に上がる筈だった姉さんがアタシに何も言わずに姿を消した時、正直アタシは、何がなんだか解らなかったくらいさ」
 母に城に上がる話があったなんて。当然そのような事は、初耳だ。いや、ある程度予測はしていたのだが、やはりそういう事だったのかと喜助は心の中で納得する。
「姿を消したって……いなくなっちまったって事ですか?」
「ああ。それも、二度もね。一度目は、最初にお城に上がるはずの日、姉さんは海に行ったまんま、帰って来なかった」
「二度目は?」
「暫くして帰ってきたと思ったら、また、さ。お殿様だって、先の事は水に流してもう一度お城に来てくれって言ってたのに。網元(あみもと)もみんな顔を潰されたって、あの後は大変な剣幕だったんだ。アタシも、随分責められたよ。結婚だって、なかなか決まらなかったくらいさ」
 当時を思い出したのだろう。タケの顔が曇る。
 しかし、母は何故二度も姿を消したのだろう。いや、どうして一度戻った村を、また捨てなければならなかったのだろうか。
「何故、いなくなったんですか?」
「さっぱり解らないよ。一度目に戻ってきてから、姉さんの様子が随分おかしいのは皆気付いてた。一日中、ぼんやりして、突然泣いて。でも、アタシにすら何があったのかは絶対に話そうとしない。……よっぽど怖い目にあったんじゃないかって皆は言ってたね」
 そこまで話し終えると、タケは、ほうっと大きな溜息を吐いた。見るからに肩から力が抜け、太い首をうな垂れた。そのまま手元を見つめていたが、ようやく思い切ったように顔を上げる。
「でも、アンタみたいな息子がいたんなら、姉さんの人生も満更悪いもんでも無かったんだねえ。ちょっと安心したよ」
 潤んだような瞳のタケは、じっと喜助の顔を見つめている。似てはいないが、そうしていると、かすかに母の面影がある。懐かしさを覚え、突然涙が盛り上がってきそうになるのを喜助はじっと堪えた。


城に上がる筈だった母に、一体何が起こったのか。それはきっと「特別な」こと―。
 瞬間、「特別な子」という母の口癖を思い出し、喜助は苦虫を噛み潰したような顔になる。兄清蔵が何か問題を起こす度に、母は繰り返したものだ。「いいのよ。この子は特別な子なのだから」と。
 幼い頃は、己と兄の何が違うのか全く解らなかった。同じ親から生まれ、兄弟に優劣などあるものかと、理不尽にも近い母の扱いの差に不満を訴えたこともある。
 しかしそんな喜助を見かねたのだろう。ある時、父がそっと教えてくれた。
 兄・清蔵は自分の子では無いのだ、と。
  父と母が出会ったとき、母は既に身籠っていたらしい。しかしそんな母を父は愛し、腹の子を自分の子供として育てる決意をしたのだという。しかし共に暮らす ようになっても、母は子の父親である男の名だけは告げることが無かった。ただ教えたのはその子が「特別な子ども」であって、しかも「とても高貴な生まれ」 という事だけだった。
 そしてその証が、常に兄の身に着けていた「守り袋」の中に入っていたのである。
 そう言えば……喜助は改めて守り袋の事を思い出す。自分は兎に角あの場所から逃れるのに必死で、守り袋の中身すら確認してはいなかったのだ。
 遠くから幾人かの声が聞こえて来るのに、喜助は急いで立ち上がった。
「俺、行きます。色々とありがとうございました」
「ああ。気をつけておいき。強く生きるんだよ」
 何度も手を握り目を潤ませるタケを残し、その場所から離れる。声は、タケの家辺りで止まった。些か興奮気味の、大きな声が聞こえてくる。
「ほんとだって。いやね、アタシも今朝方馴染みの行商人から聞いたんだけど、すっかり水浸しになっちまった村に、どうにもおかしな死体が浮いてたって」
 ―――見つかった!
 喜助は震えた。おそらく向こうで話しているのは、清蔵のことだろう。清蔵を殴った後、埋めて隠す気力も度胸もなかった喜助は、溢れんばかりの水の中に清蔵の死体を放り込んだ。まさかこんなにも早く検分が始まるとは思っていなかった。大方、水がすっかり抜けたあとだろうとばかり思っていたのだ。
「それがねえ、なんでも足がねえ……」
 喜助は音を立てないように注意しながら、海の方へ向かって歩き始めた。
 『足』? 後ろからひそめるような声が聞こえてきた。風に流れたそれに気を取られ、喜助は蹴躓きながらも、なんとかその場を逃げ出した。




『ただひとの夢』(3)に続く

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ただひとの夢 (3)

 最初に母の姿が見えなくなったという場所は、ぽっかりと崖の下に空洞が空き、中にまで海の水が入り込んでくるようになっている。満ち潮の時には、穴の中に入ることは出来ないだろう。
 喜助は辺りを見回すと、洞窟の中に入っていった。適当な石を見つけると、腰を落ち着ける。そして、ゆっくりと守り袋を取り出した。
 この中にある「証」とはなんであろう。お殿様の一筆でもあればしめたものだ。それを持ってお城の門を叩き、「ご落胤でござる」とでも名乗り出れば喜助の生活は一変するであろう。慎重に守り袋を開けた。中は真っ暗である。紙が入っているような気配もしない。
 訝しく思いながらも、袋を逆さまにしてみた。とんとん、と数度か振り左手を広げれば、中から何か乾いた花びらのようなものが数枚転がり落ちてくる。



「なんだ? こりゃあ」
 ひとつつまんで目の高さまで持ち上げる。そして、喜助はあからさまにがっかりしたような表情をみせた。
「魚の……うろこ?」
 同じうろこでももっと美しいものがあろう。しかしそこにあるのは、月日が経ってすっかり色の抜け落ちた、乾いた魚のうろこであった。
「一体、何なんだよお」
 半泣きで喜助が呟いた時、後ろの暗がりから声が掛かる。
「これは、我が君」
 空洞にぐわんと響いた声に振り返れば、上品そうな小柄の老人が立っていた。いつからそこにいたものか。全く気配に気付かなかった。しかも”我が君”とは何のことだろう?
「アンタは……?」
 睨み付ける勢いで問えば、老人がやんわりと笑う。光の加減か、その笑う顔に不気味さが漂っている。ぞくり、と、喜助の背筋を訳も解らぬ冷や汗が滑り落ちていく。
「ようやく、お迎えに上がる事が出来ました。貴方様こそ、我が主人のお子。その手にされたものが、何よりの証拠でございます」
 思わず喜助は手の中を見つめる。これが、なんだというのだろう。
「迎えに来たって……我が主人、とは?」
「以前に、貴方の母君にここで助けて頂いたのですよ。お聞きになっていませんか?」
 無言で首を振る。余計なことを話さぬほうが良い。本能がそう告げている。
「…… そうですか。主は、怪我をしてここで蹲っていたところを、貴方のお母様に助けられました。主はたいそう感激し、術を施したお母様を城へ連れて行かれました。しかし誰一人として知るものの無い城の生活は寂しかったのでしょう。どうしても帰りたいと申し上げられ、泣く泣く主はお母様をお返ししたのでございます」
 それは真実か、と口に出掛かったが、その声を喜助は飲み込んだ。いつの間にか、老人の手が喜助の腕をしっかり掴んでいる。驚くほど滑ったその感触の不快さに声も出ない。
「離して、くれ」
「それは、出来ませぬ。貴方様は、次代の主になられる方。そろそろ我が君も寿命が尽きまする。御子(みこ)様に、ぜひとも城に参って頂かねば」
 老人の瞳がどんよりと光る。その暗い輝きをどこかで見た、と思った時には、互いの体はずぶ、ずぶ、と水の中にはまり込んでいる。
「さあ、参りましょう。竜神の宮が貴方をお待ちしておりまする」
 竜神の宮?
 喜助の頭がその言葉を繰り返した時、すっかり水に漬かった老人の足がひれにその形を変えていくのが目に映った。驚いて老人の顔を見て思い出す。これは先程タケの手にあった、干物にされようとしていた魚の目だ。あのぎょろりとした大きさ、目の濡れ方。間違いない。
 思わずえづきそうになった喜助の体は、どんどんと水に沈んでいく。もがこうとしても、もがけない。海面はすでに胸の高さだ。
「うわ、待ってくれ、違うんだ、待ってくれえ!」
 ばたばたと腕を動かしても、一向に老人の腕は緩まない。顔の高さまで水が迫る。次から次へと海水が口に流れ込んでくる。もう、言葉を発することすらままならない。
「大丈夫でございますよ。貴方は我が主(あるじ)竜神の子ども」
 頭まで水に漬かりながら、喜助の頭に突然閃くものがある。あの凄まじい洪水の中で、兄がたったひとり、生き残った訳は。
 決して泳ぎが達者だったというだけでは無く。
「水の中で苦しい訳がありますまい」
 『違うんだ』と喜助の口が動いた。
 しかしそれは音にならず、喜助の口に大量の水が流れ込みそして―。

 暫く泡としぶきを上げていた水面はすっかり静まり、穏やかな青い海は何事も無かったような顔をして、燦々と輝く太陽のしたでいつまでも煌いていた。




『ただひとの夢』・了


お読み頂き、ありがとうございました。


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